雨と黒猫、路地裏の誘い

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 そして、視線に晒されるのが嫌なのか、お家へ帰りたい気分なのか、ごみ箱から降りた黒猫は路地裏へと消え行こうとする。  きっと何時もはそれで終わりなのだろう。だが、今日の黒猫は気分が変わったのか、最後に彼女に向かってにゃあ、と鳴いてから消えていった。  その後ろ姿が「ついてこい」と言っているような気がして彼女は一歩足を路地裏に向ける。  しかし、次の一歩は進まない。何せ、この路地裏は進んだことがないのだ。何処まで続いているのか、何処が出口なのか、それも分からない。暗闇は、彼女の体を覆って消し去ってしまうような魔力を帯びていた。  小説ではロマンティックに溢れた路地裏も、現実に見ると異界の扉にしか見えない。  けれど、黒猫の後ろ姿に何かを感じて、この路地裏もこのまままっすぐ進めば近道かもしれない、そんな言い訳をして彼女は歩を進めた。  行き止まりでも、最悪言った道を戻れば大丈夫だろうと軽い賭博の気分になりながら。
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