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迷いと香り、温い歓迎
雨の雫が落ちる音が響く。
進めど進めど路地裏の出口は見つからない。
最初は気軽に勧めたはずの足も重くなり始め、辺りに漂う暗闇に恐々としている。
もうそろそろ引き返そうか。このまま先に進んでも埒が明かないと悟った彼女は踵を返そうとする。
ーーにゃあ
その時、暗闇の奥から黒猫の鳴き声が聞こえた。
服はずぶ濡れになり、最早急いで帰ろうが帰らまいが結果は変わらない。それならせめて黒猫が何処にいるかだけでも確認しようかと彼女は鳴き声の方へと進む。
やがて鳴き声が傍まで聞こえてくる頃、光を避けるようにして黒猫が居座っていた。
黒猫の正面には小さな店があった。壁をくり抜いて店にしたかのような見た目をしており、塗装は剥がれ、看板は錆びて全く読めない。
唯一「OPEN」の掛札がかかっている事が店であることの証左だった。
窓から差し込む光が強く感じるのか、小さな窓からは中の様子は見えない。
ただ、何か芳しい香りが雨の匂いに紛れて漂ってくる。
こんな辺鄙に建つ店だ、ろくな店ではないことは察していたが、気になった彼女はドアノブに手をかけてしまった。
普通はそんな場所、恐れてまともに近寄らないだろうに、好奇心故に彼女は扉を開けたのだ。
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