道士趙海の場合01

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 中華人民共和国が実質上政権を失い、「(ちゅう)」国が健立されて二ヶ月。無論国連に認められてはいない。第一、国連の現在の状態は新規の国を認めるどころではない。  書類を書く手を止める。 「すまない、麗花(リーファ)、肩を揉んでくれないか」  傍らで書類を纏めていた女が溜息を吐く。 「道士様、少し休まれては如何です?」  肩を揉まれながら、うっすら微笑む。 「今休んでいる」  わざと肩を強く掴まれた。気持ち良いだけなので何も言わぬが。 「休日の事ですよ。決起なさってから、一日も休まれてないじゃありませんか」 「齢三十五で一日も休まないのは幸せだ。何より、この農地開拓計画をきちんと行わないと、我が同胞が何人も倒れる。国も倒れて人民も倒れては意味が無い。国を倒したのだから人民を幸せに生かす義務が私にはある。こんな未熟な道士に付いて来てくれた大家達だぞ」 「未熟などと……」 「謙遜(けんそん)ではない。私が使えるのは飛空術と金遁(こんとん)の術だけだ」 「その術によりて、大きくは国を、小さくは処刑から私を救ったのはあなた様ではありませんか」 「私の術が救ったのではない、皆の正義の心が救った」  やけに真っ直ぐな目の男、道士趙海(どうしちょうかい)は言い切る。 「そのお言葉が本気なのは分かっています。でも、あの時、私をお救い下さったのはあなた様です」  あの時、か。  趙海は処刑場を思い出す。中華人民共和国の公開処刑場。趙海達が決起した場所。
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