道士趙海の場合01

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 青天に泣き叫ぶ声が響く。  趙海は飛び出す瞬間を待つ。  この公開処刑の真の意味を知る者として、彼らを救う術を持つ者として、失敗も逃亡も決して許されない。  酷い緊張がずっと襲って来ている。  日本と同じ集団死亡事件によって、中華人民共和国は六十の村と更には吉林省、広東省、香港が全滅していた。  最初は小さな村の全滅から始まったこの現象は、規模がどんどん大きくなっていく。 (むし)め。  趙海は心中で毒づいた。 食い散らかして肥え太りおって。  政府はこの現象を「病の流行」と見なした。そして決定を下す。キャリアの可能性がある者。すなわち、全滅した者達の血を濃く引く者は出頭すべしとの命令。  従って出頭した者達は、何の検査も無く殺害された!  政府にはもう病について調査する予算が無かったのだ。発端は日本の企業及び貿易の全撤退。そこから「病」の感染を恐れる国々はどんどん貿易を中止していく。  殺害の噂が広まるにつれ、人々は出頭しなくなる。すると政府は「人間狩り」を行った。「病」のキャリアと思しき者を、女子供まで逮捕し、今、こうして公開処刑を行おうとしている。 許せぬ。人間のやる事で無い。  銃口が向けられる。 第一  趙海は処刑場に飛び込んだ。突如空中から現れた男にどよめく声。飛び降りた衝撃から体を起こしながら趙海は睨みつける。 これは病ではない。 「構わん! 撃て!」  ライフルが発射される。  ずっと呟いていた呪文の最後に、趙海は叫ぶ。符を構える。 「金遁の術!」  ライフルの弾が全弾、人間に当たる前に落下する。兵士達が撃ち尽くしたのを確認すると、再び叫んだ。今度は宣誓だ。 「我らが同胞達よ! この死は病ではない! 病に罹っているのはこの国だ!」  テレビでこの処刑が公開されているだろう。何より人々が正しき言葉を聞いてくれる。そう信じている。 「私は道士趙海! 若輩の者なれど、不義に耐える事叶わず! 同胞よ! 正義の心を持つ同胞よ! お前達はこの扱いに耐えられるか!? 悪が(まか)り通るのに耐えられるか!? 最早、新たなる国が必要なのだ!」  「中」国軍決起の始まりだった。
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