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「だから西洋の錬金術を調べたんだ。だって金だからね。そして理解した。錬金術の目的は賢者の石を作り出すこと。賢者の石は卑金属を貴金属に変え、不老長寿を齎す完全なる物質。フラスコの中で研究に研究を重ねて作られる、「完全なる物質」なんだ。壺とフラスコ、似てないか?もう一度言うよ。卑金属を貴金属に変える。つまり何かを金に変えるんだ」
「お前……何を言ってるんだ?」
構わず彼は続ける。手首の傷を舐めて誘いをかける。痛い痛いと大げさに騒ぎたてられた傷痕をべろべろ舐める。
「此処で東洋の道教が出てくる訳さ。道教のマークは対極図、黒と白が巴型に合わさって中に二つ双方の点がある。これぞ道教の基本、陰陽。陰は女、陽は男。そこで俺はこの結論に辿り着く。金蚕とは男も女も兼ね備えた、人間ではないか?とね。最初は人間ではない可能性も考えたが、これも錬金術が証明してくれた。錬金術でよく出てくる完全を現す図柄は、両性具有の人間なんだ」
父親のアルコールで黄色くなった目に再び微笑む。
「そして物質を霊的な物に変えるのは水銀、入手済みだ。そして俺は父さんに抱かれて女としての役割も果たした」
小箱を開けて、中の物を取り出す。 父親の顔が強張った。絶対的強者が絶対的弱者に転落した。
「やめろ。やめてくれ」
彼は歯をむき出し、目を完全に見開いて笑った。
「分かるか?これは共食いなんだ。このアパートの部屋はね、蟲毒の壺だったんだよ!」
そのままいっきに父親の喉笛にナイフを突き立てた。それから両目、胸、腹、滅多刺しに突き刺した。
血糊でナイフが滑り、ようやくひと心地付いた彼は、血でべたべたの手でまた小箱から、小さな瓶を取り出した。
「こんな綺麗な水、だれも見たことが無いだろうな」
押入れに放り込まれて、腐って骨になっているだろう祖父も祖母も母も姉も、そこで転がっている父親も。いや、それじゃあ例えがあまりに小さすぎる。この町中? 否。この国中? 否。この世界の全ての人間が!
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