1.出会い

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 後輩の酒田が、大学の後輩の試合があるんで一緒に行きませんか、と声をかけてきたのは、顧客からの電話を受け終えて、書類を早いところまとめなくちゃ、と思っている時だった。頭の中はほとんど仕事のことで、酒田の話をまともに聞いていなかった。だから、その時は「あ?いいよ?」と、気軽に返事をしていた。  ここは、D大学の体育館。周囲は多くの人で溢れ、体育館の中は熱気で余計に蒸し暑くなっている。到着した時には、座れるような場所はなく、俺たちは人ごみの後ろの方から覗き込んだ。  そして、今、俺は呆然としている。 「九十九番!」  俺より少し背が高い酒田が隣で大きな声で叫んでいる。  目の前では、黒い燕尾服の男と、カラフルな色のドレスを着た女の子が、怖いくらいに笑顔を浮かべながら、曲に合わせて、くるくるとフロアを踊っている。 「なんだよ、これ……」  俺は、どうも、大学のダンスの大会とかいうのに連れてこられたらしい。
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