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「いやいや、む、無理ですって」
俺はジリジリと荷物のあるほうへと後退する。そんな俺を追い詰めるように、にこやかな佐竹さんが近づいてくる。
「えー、たまに運動とかしといたほうが、身体のためにいいと思うけどなぁ」
「い、忙しくて、そんな時間ないですから。あ、ありがとうございました」
俺は佐竹さんから逃げるように、玄関近くに置いてある荷物を手に取った。
「ええ、もったいないなぁ」
「あ、葛木さん?」
佐竹さんの残念そうな声に、女の先生と組んで練習をしているようだった安藤くんの動きが止まった。逃げ帰ろうとしている俺に気がついてしまったようだ。
「お、おお。俺、帰るわ。練習、頑張れよ」
たぶん、顔が若干ひきつっていたかもしれない。
「え、あ、はい……」
安藤くんは不思議そうな顔をしながら、俺にペコリと頭を下げた。俺は靴を履くと、急いでダンス教室から飛び出した。
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