僕とカコ

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佳子と結婚してから、もうすぐ1年になる。 高校時代の同窓会で、僕たちは再会した。 高校1年生のときに同じクラスだった僕らは、名前の順に座ると席が隣だった。試験期間は名前順に並び直す高校だったので、僕たちは数ヶ月おきに隣同士になった。 試験前の慌ただしい中、今更詰め込んでも無駄だと開き直った佳子は、僕によくちょっかいを出してきた。思い切りのいいところが佳子にはある。 さて、なぜ話し相手に僕が選ばれたのかというと、それはただ、他の誰も相手にしないからだった。僕が試験勉強を済ませて余裕かというと、もちろんそうではないし、更に、佳子のように潔いタイプではない。しかし長いものに巻かれるというか、とりあえず巻いてくるものには巻かれるタイプだったので、佳子にひたすら巻かれていたというわけだ。 「ねえねえ」 佳子はその日も、数学のテスト前にシャープペンシルでつついてきた。 「虚数って知ってる?」 「知らんなあ」 「2年で習うらしいんやけど、二乗したらマイナスになる数なんやって。なんやそれって感じやんなあ」 今ほかに考えることがあるだろう……という台詞は無駄だから言うだけ損だ。僕はいつも聞き役だった。 佳子は数学が好きなようだった。2年生からの文理コース選択でも、佳子は予想通り理系のクラスに進んでいった。 完全な文系脳だった僕は、迷うことなく文系コースを選び、佳子とはもう隣り合うこともなくなった。 時は流れ、数年後、成人式で再会。長く、いつもポニーテールにしていた髪をばっさり切ったことにも驚いたが、佳子が文学部に進学していたことの方が僕をびっくりさせた。 「理系ちゃうかったん?」 「話せば長なるねん」 実際、物理がどうしても克服できず、入試科目の制約から、文系に転換したとのことだった。全く長くならない話ではあったが、それを口実に二人で飲みに行ったことがきっかけで今に至るので、口から出任せに感謝しかない。
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