喫茶店の金の折り鶴

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初めてできた彼女と、行きつけだった喫茶店。 漫画に出てくるような仲の良い老夫婦が店を開いていて、自慢の珈琲を面白い話とセットで出してくれた。 僕と彼女は時間さえあればその店に通って、美味しい珈琲が冷めるくらいたくさんの話をして、たくさんの幸せな時を一緒に過ごした。 喫茶店でお互い話すことが無くなり無言になったとき、彼女は決まって金色の折り鶴を折った。 小さな何かの包み紙で折った鶴はとても丁寧に折られていた。彼女は小さい時から折り紙好きだったそうで、負けず嫌いの僕が何回折っても、彼女の折り鶴には全然敵わなかった。 僕が不満げにそれを言うと、彼女はいたずらっぽく八重歯を見せて笑っていた。可愛らしい、素敵な微笑みで、僕は怒るのも忘れて彼女に見とれていた。 いつだったか、彼女の折った折り鶴が老夫婦の目に止まり、お店のカウンターに飾って貰えることになった。小さな金色の鶴は可愛らしく、木で出来たお店のカウンターを美しく彩った。 彼女と喫茶店に行く度に、金の折り鶴は増えていった。 僕の折った不器用な形の鶴も、たまに飾られた。その度に彼女には笑われたけれど。 そんな幸せな時を何度も過ごした。 やがて季節は巡り、僕と彼女は別れた。何が悪かったなんてもう覚えていない。思い出したくもない。 ただ、別れてから長い間は喫茶店には行かなかった。 ほとぼりが冷めてからじゃないと、幸せだったあの時の時間まで、悲しい記憶になってしまいそうだったから。 それで、この間ふと思い出して、あの喫茶店に行ってみたんだ。 そしたら、喫茶店のカウンターには、
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