僕とはちみつ

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 たくさん孝行をしよう、と意気込んで帰ってきたのに、少年期を過ごした場所は知らない間にまるで他人の家のようだった。  モノが、ないのだ。  僕が使っていたモノは少しずつ整理整頓されて、学生時代の乱雑さなど何処にも見つけられない。カタチだけ残された「僕の部屋」の中に隙間なく詰め込まれている。  祖母は良く言えば物持ちが良く、悪く言えば片づけられない方だったから、いつも家の中はそれなりにモノがあふれていたのに。 「ばあちゃん、着物とかどうしたんだ?」 「あれか。アレは欲しいと言ってくれたヒトに売ってしまったよ」 「日本人形の群れは?」 「あれか。アレはみんなボロボロになってしまったから、きちんと供養してもらったよ」 「花壇もないじゃないか」 「あれか。もう、自分の世話で手がいっぱいで植物の面倒なんてみれないよ」 「編み物もやめたのか?」 「あれか。もう、誰もこんなばあさんに依頼しないよ」  祖母は多趣味なヒトで、僕の世話の合間を縫っては着物を綺麗に着付けて友人と遊びに行ったり、依頼を受けて針仕事をしたり、丹誠込めて花を育てるような暮らしをしていたのに。  久しぶりの我が家にあるのは、必要最低限の家具と必要最低限の僕が居た痕跡だった。 「ばあちゃん、この家、こんなに広かったんだな」     
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