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「なんだい、アンタまたここにいたのかい」
「あそこにいるの、誰?」
小さな手が、二つの黒い写真を指した。
「ああ、あれはアンタのお父さんとお母さんじゃないか。忘れてしまったのかい?」
「うーん……」
「毎日、飽きもせず眺めているくせによく言うよ」
「覚えてない……」
「アンタはまだ小さかったからねぇ、無理もないよ。ホラ、ハチミツりんごだよ。食べるだろ?」
「うん! 食べる」
普段のご飯や味噌汁にはフイと横を向く癖に、ハチミツ漬けのりんごには喜んで飛びつくのだから、やはり完全に取りあげてしまうことなんて出来ない。
「おいしー! ……じゃあ、隣に居るのはだぁれ?」
ハチミツが垂れた手首を舐めながら指さしたのは、今度は私の若い頃の写真。
「あれは私だよ」
「嘘だぁ。だって、ばあちゃんじゃないし。おねーさんだよ?」
「私だって、若いときぐらいあったんだ」
「なんで、ばあちゃんは生きてるのにあそこに飾られているの?」
私の写真は、黒い縁に囲まれて故人である娘と娘婿の隣に飾られている。
娘と娘婿の写真は胸から上だけなのに、私の写真は全身が写っているから、あの子の目には余計に異質に見えたんだろう。
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