僕とはちみつ
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僕とはちみつ

 僕にはひとつだけ、どうしても苦手な食べ物がある。  もともと食べ物の好き嫌いはない方だけど、ソレだけはダメなのだ。  ハチミツ。    料理の隠し味として使われていても敏感に感じ取ってしまうし、匂いもダメだ。  だから、ケーキや甘いモノが売っているお店にも迂闊に近づけない。  でもまあ、ハチミツが食べられないからといって別に生活に困るわけではない。  アレルギーを持っているわけでもないし、ただ単に口に入れたくないだけ。  別に公言しなくても、それなりになんとか生きることはできた。  このことは、誰も知らない。  言うつもりもない。 「………」  だから今、目の前に置かれている涼しげな透明の器の中に満たされた、林檎がたっぷり沈んだゼリーからどぎついハチミツの匂いがしている件については、誰の悪気もない。  僕が、自分の嗜好を表明していなかったのが悪い。  成人して、仕事に就いて、数年働いて、久々に得た夏期休暇。  久しぶりに帰省した孫の疲れを癒すために、祖母が用意してくれたもの。   「………」  いつものように適当な理由で断ればいいのに、うまい台詞が思いつかない。 「どうした? 食べないのかい?」     
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