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はちみつと僕
テレビ越しに不幸の知らせを受けて、まだおぼつかない足取りの孫を引き取ったのは本格的に暑くなる前。
自分の身になにが起きたか分からないまま、夏休みでもないのに「おばあちゃん」である私と一緒に暮らしていくことになったあの子は、いつもぼんやり虚空を見つめていた。
あの子にとっての両親の不在は、時間が解決してくれるだろう。
私にとっての娘と娘婿の不在だって、時間が解決してくれる。
私たちは、生きていくしかない。
すっかり食が細くなったあの子のために、好物のハチミツをたっぷり使ったりんご漬けを皿に載せてキョロキョロと居場所を探す。
甘いものなら食べるから、とそればかり与えていたらさっそく虫歯にさせてしまった。歯医者の言うことも分かるが、そういう正論だけではどうにもできないこともある。そうだろう?
だけど、また痛い思いをさせるのもかわいそうだから、最近はハチミツを使う頻度を減らしたし、きちんと最後まで歯磨き指導をしている。
どうか、それで許してほしい。
「ねえ、ばあちゃん」
仏壇の部屋から声がした。
夏の暑さから逃れるためにすべての扉を開放しているから、あの子の甘えた声がよく聞こえる。
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