170人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
アサドは銃弾を二発も受けていながら、その弾は砕けもせずきれいに貫通していた。
不幸中の幸いとはこのことか──
内臓も傷付けず、撃った奴は腕がいいんだか悪いんだか……。
カーディルは椅子に腰掛けるとまた目を閉じたアサドを見つめる。
「ふ……やっぱりしぶといヤツだな、お前は」
カーディルは思わず笑いながら小さくそう、呟いていた。
北の空が赤く染まり、陽が落ちて神々しい夕焼けに辺りが包まれる。
暫くすると城の上には白い月がぽっかりと浮かんでいた──
太陽の賑やかな色彩とは打って代わりとても静かな乳白色で暗い空を引き立てる。
古城をささやかに照らし、月は皆がゆっくり休めるように、優しい光を放っていた。
「国王様…」
「うむ」
「今夜は早目に休まれては如何でしょうか」
「………」
窓から夜空を眺めていたイブラヒム国王は床を進められて無言で月を見上げた。
「アサド様が倒れられてからというもの、国王様はゆっくりとお休みになられていらっしゃらない…今日はぐっすりと眠れるかと思われます…」
言われて国王は振り向いた。
「うむ。ならばお前ももう休め。その目の隈は、余と同じ思いをして夜を越した証だ」
イブラヒムは立っていたハーディを見つめる。
そのイブラヒムにハーディは観念した笑みを微かに向けた。
最初のコメントを投稿しよう!