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「意識はっ…」
駆け込んできた医者がカーディルに尋ながらアサドを覗き込む。
ポケットからペンライトを取り出すとアサドの瞼を大きく開き、ライトを当てた。
間近で動く光に瞳孔がしっかりと反応する。
医者はそれを確認すると、ホッとして笑みを浮かべた。
カーディルはその表情につられて安堵のため息を漏らしていた。
煩かった声は止んだが、今度はざわざわとした話し声がしている。
ぼんやりとするアサドの狭い視界には、病室の白い天井が靄のように映っていた。
何か大事なことを忘れている気がする──
思い出そうにも中々思い出す事が出来ない。
無理に考えると目眩がしてくる。
アサドはまたゆっくりと瞳を閉じていく──
カーディルは慌ててアサドの肩を掴む。
身体を揺り起こそうとしたカーディルは医者や看護婦に必死で止められていた。
「…っ…は、放せっ…アサドがまた眠ったらどうする!」
「大丈夫ですからっ…目覚めてからショックを受けないように脳がゆっくり情報を集めているんですよっ…」
「……っ…」
「耳は聞こえているはずですから……ゆっくり…話し掛けてあげてください」
息を切らしながら説明した医者を前にして、カーディルは抵抗していた力を少しずつ緩めた。
医者の言葉にカーディルは何度も頷く。納得した仕草を見せたカーディルに、医者もホッとして病室を後にした。
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