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「畏まりました。では、お言葉に甘えてお先に……」
「うむ……ゆっくり休め。余もじきに休む……今夜は久し振りにいい夢が見れそうだ…」
そう言ってまた、背を向けて月を見る。ハーディはそんなイブラヒムの背中に静かに会釈を返し、王の居室を後にした。
ハーディの去った居室でイブラヒムは一人、目を閉じて風に当たる。
何人居ようと一人一人、それぞれが大事な我が子達だ。
唯の一人も欠けてはならぬ。
イブラヒムはアサドの回復の報せを今じっくりと噛み締める。
子は親の心を知らぬ。
だがそれも仕方のないこと──
今が一番悩み苦しみながら色々知っていく歳の頃だ。
親の手を離れ、外気に晒され傷付き──…そして気付いていく。
危険を承知で身を投じた軍人としての生き方。
命を懸けるからにはアサドなりの大義は見つかったのだろうか。
親としては色んな事が気掛かりだ。
「……ただ何もせず見守るだけも……辛いものだな…」
イブラヒムは呟くと小さく鼻を啜る。
そして、また月を見上げていた──。
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