2 カウンター席と薄明かりのうたかた

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 漫画のネタにできるな、とも思った。和菓子屋の娘と小説家の男の穏やかな日常。このまま自分で想像を膨らませていくのも悪くないけれど、もう少し話を聞いたほうがリアリティが出るだろう。 「あの……わたし、フリーの漫画家やってるんですけれど」 「漫画家さんなんですか。凄いですね」 「それで、ちょっと今ネタに困っていて」わたしは言葉を慎重に選びながら、「その、……お名前なんでしたっけ?」 「私ですか? オトリです」 「ありがとうございます。それで、オトリさんをモデルに描いてみようかと思ったんですが、もっと色々質問していいですか? もちろん、モデルにしたことは誰にも言わないので、宣伝にはならないです」 「あら、どうしましょう」と女性……オトリさんはわざとらしい口調で考え込む。「別に、漫画のネタになるほど濃い話もないですよ? ねえ、位先生」 「……ああ、そうだな」 「細部まで取材してリアリティを追求できればそれでいいんです。キャラの味付けは得意なので」 「そうですか。わかりました」オトリさんは頷いてくれた。「でも今日はそろそろ閉めようと思うので、また後日でいいですか?」 「え? そんなに早いんですか閉店時間」 「いえ、知人がやってるバンドのライブがあるので」 「はあ……じゃあ、明日でもいいですか?」 「かまいませんよ」 「ありがとうございます」  そしてわたしは、お代を払って店を出た。家に帰ったとき、店名の読み方を訊き忘れたことに気づいた。
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