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ここのカフェは僕の中で、一二を争うほどに素晴らしかった。 いや、あまり個人経営のカフェに行った事が無いのもあるだろうけど、それでも心を掴まれるカフェだった。
もかさんの父親が以前は経営していた点、そしてラテアートの点においても故郷の母親を思い出せて良かった。 我ながら良いカフェをこの都会の雑踏の中から見つけ出せたもんだと誇りに思う。
実際、このカフェをお勧めしてくれたのは職場の先輩だけど。
やっと板についてきたスーツの内ポケットから携帯を取り出し、会社にとある連絡を入れる。
「ーーあ、若井です。 ええ、はい。 そうです」
電話の相手は社長だ。 いや、言い方を変えると“ 編集長 ”にあたるだろうか。
僕が務めているのは都市内でも有名どころの雑誌社だ。 月に一度、大々的にある一つの話題について取り上げている。 偶然にもそのテーマは『人に教えたくなる隠れ家』だった。 新入社員である僕に与えられた初めての仕事。 大々的に取り上げられるといった責任の重さがある。
『責任』の言葉が重くのしかかり、ひと息つきたいと思った矢先に先輩から教えられたカフェ。 まあ、多少の息抜きにはなるだろうと訪れたのだが、これは運命に値する出会いだった。
「次号の特集、良いのがあります。 ......名前、ですか?」
そう言えば、もかさんからここのカフェの名前を聞きそびれていた。 店前に看板を出しているようなカフェではなく、外から見れば何屋か分からない。 それこそ、隠れ家のように。
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