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コーヒーに対して手を抜かないのはカフェとして当たり前だが、わたしにはそれ以上の理由がある。
「......どうぞ」
コースターの上にグラスを置き、ストローも添える。
「あ、ありがとうございます」
男性は喉が渇いていたのか、ストローを使わずふちに口を付けてコーヒーをぐびりぐびりと音を立てて飲んでいった。
手を止めて、ふうっと息を洩らし、
「なんだか良い雰囲気ですよね」
店内を見渡しながら男性は言った。
グラスに注いだアイスコーヒーは半分まで減っていた。
「......ありがとうございます」
「実は僕の母親もカフェを経営しているんですよ」
「......え?」
それは何という偶然だろう。 私は食い入るような視線を送る。 こんなときも話し込むことが自らできないのが悔しい。
男性は気さくに続ける。
「ここと同じくらいの広さなんですけど、田舎なんで客があまり来ないんですよね」
男性は微笑を浮かべ、今度はストローでコーヒーを飲む。 やはり先ほどは喉が渇いていたのだろう。
「やっぱり、こだわりってあるんですか?」
その質問に、はたと困る。
このカフェのこだわりは山ほどあるのだ。 対人コミュニケーションの苦手なわたしにとって、それを説明するのは至難の業である。
「......まあ、それなりに」
「へえ。 それは楽しみになってくるなあ」
男性がもう一度ストローを咥えようと視線を落とした男性は「あ」と声を洩らした。
「サイドメニューも豊富なんですね」
メニューの片隅に表記していたサイドメニューを人差し指でトンと叩いて指し示す。
それもこだわりの一つだ。 コーヒーだけに特化したカフェも少なくないだろうが、ここのカフェはサイドメニューも凝っている。
サンドウィッチを始め、ハンバーガー、カツサンド、サラダ、デザート類。 どれも自信のある料理たちだ。
「オススメはありますか?」
一番無難な質問だ。 一般的な料理でも良いのだが、オススメと言われれば、わたしは少し変わり種のメニューを指差した。
「あなたの、花......?」
メニュー名を口に出して読み上げ、男性は首を傾げる。
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