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時刻は四時になりつつある。 営業終了時間だが、この男性とならいくらでも話ができそうだった。
親がカフェを営んだ経験がある共通点がそう思わせる要因だろう。
「僕、応援しますよ。 もかさんなら大丈夫です」
「......あ、ありがとうございます」
正直、「大丈夫」という言葉に信頼を持てない自分がいた。
大丈夫なら、いまごろこのカフェの規模は大きくなっているに違いない。 わたしが継いでからはや数年。 現状はこの小さなカフェだ。
父が病で倒れたと噂が流れた途端、客足はピタリと止まった。 初めこそ資金のやりくりはできたものの、次第に厳しくなり始め、いまでは一人でも客人が来ないと経営破綻してしまう状態だ。
わたしの対人コミュニケーションがしっかり出来ていれば、こんな事にならなかったのかと当時はストレスに苛まれていた。
「どのメニューもきっと素敵なんでしょうが、やはりラテアートはこのカフェの目玉でしょうね」
そう。 経営破綻の崖っぷちに立たされたとき、起死回生を望んで思い付いたのがラテアートだった。
植物、特に花が好きだったわたしは父から教えてもらったラテアートと融合させて新しいメニューを生み出したのだ。
ただ、このメニューの人気が無くなれば、このカフェの終わりを告げていると言っても過言ではない。
「......もっと、人気が出れば良いんですけどね」
わたしは若井さんに、精一杯の微笑みで返す。
「では、僕はできる限りの力で周りの人に宣伝しますよ」
若井さんも微笑んで返してくれた。
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