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奴隷は富裕層しか持てない為、家の格を重要視する富裕層の人々から粗末に扱われることはない。元々他の領主との戦争に負けて奴隷の身に窶している者達が大半の為、その殆どが人質という側面が強いのだ。粗末に扱おうものなら戦争で負けた時に報復されるのは必然といえる。それを危惧して大領主自らが「奴隷を粗末に扱うな」というお触れを街の至る所に掲げていた。ではそれに従わない者はどうなるか?処刑されるのである。
処刑人――異形の鎧を身に纏い人々から畏怖される存在。大領主から治安維持と自由死刑執行権を与えられた死神達。その中でも取り分け異質な死刑執行官がいる。錆だらけの甲冑に身を包み幽鬼の如く街を彷徨い歩く執行官。手には血液が固着しヘドロがこびり付いてるかの様。執行官に与えられた二つ名は均衡。しかし街の人々からは腐肉喰らい(スカベンジャー)と呼ばれていた。本当の名前は誰も知らない。そう、本人さえ。
「ねえ、あなた私以外の娼婦(ひと)とは寝ないの?」
小鳥の囀るかの様な少女の声が狭い室内に広がる。ランプの明かりは少女の絹糸の様な髪を薄暗い部屋の中からすくい上げる。部屋の壁には辛うじて浮かぶ二つの影。小さい方は少女の物で大きい方は客の物。ランプの炎が揺らめく度に二つの影も儚く虚ろう。
「他の女共は臭くてな」
「香水の香り? お姉さまたち良い匂いだと思うんだけどな」
「あの臭いを嗅ぎ慣れると他の臭いが分からなくなる」
「お仕事の邪魔になる?」
「ああ」
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