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動乱の起源は此処に在り
石畳は雑踏の音を曇天に向けて拡散させていた。道に打ち捨てられたゴミやら糞尿やらの纏わり付く様な臭気は、雑踏の音と混じり合いながら今日もゆるゆると風に煽られている。
ここは規律都市ルーリィ。大領主の完全統制により出来た街。
ルーリィでは大領主こそが絶対の法であり、また神でもあった……というのは一般区画の話だけである。地上の楽園と謳われるルーリィは、平民達ですら他の領地に比べて豊かな暮らしをしてはいるが、だからといって人間社会の楔から解き放たれているわけではない。
楔――そう、それは経済であり、エントロピーであり、人間の持つ感情でもある……つまるところ人間社会の構造の欠陥をこの街は克服している訳ではなかった。不完全で歪な地上の楽園。それがルーリィ。
王族、貴族、平民、奴隷、その階級に身を置く者達は大領主のもたらす恩恵を受けているおかげで他の領地にある街よりもマシな生活を送れているのは事実ではある。しかし大領主が行う無茶な政策のしわ寄せはある一点の階級に集中していた。そう、貧民である。
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