新入生オリエンテーション

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とりあえず、右だな。 そう決めて一穂を見ると、あれ、何だか嬉しそうだ。 「一穂、どうかした?」 「な、何が……」 「いや、なんかさっきまでと違う気がして」 気のせいかな……。あっ、泣いたからか頬が土でよごれている。 ハンカチなんて持ってないので、顔に手を伸ばし親指で拭うと一穂がびっくりして息を飲んだ。 「土で汚れてたから。俺普段からハンカチとか持ってなくて、びっくりさせたかな。でも、お前の綺麗な顔に傷がついてなくて良かったよ」 にこりと笑うと、一穂が真っ赤になってうつむいた。 「急に優しくしないでよ……」 「ハハハ、そうかな」 「そうだよ」 ジャージに付いた土をパンパンと豪快にはらって歩き出す。 「ちょっと急ぐぞ」 「うん。………ねえ、さっきから名前で呼んでるの気づいてる?」 その時、遠くで誰かの声が聞こえた気がした。 「今何か聞こえなかったか?」 「……何も」 「そう言えば、さっき何か言った?」 ううんと首を横に振るので、まあいいかと聞くのを止めた。 「バスの時間まで後20分だ。行こう」 ちゃんとついてこられるか注意しながら、少しずつスピードを上げる。 「一穂平気か?辛かったら言えよ」 「大丈夫。………ずっとそうやって名前で呼んでよ」 一穂が小さく呟いた声は、俺には届かなかった。
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