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一穂の駅は、俺の駅の3つ手前だったので、俺は2週間の間途中下車して一穂を送り迎えしていた。
俺も一穂も口数が多い方ではないのでどちらかと言うと黙って歩いてるんだが、不思議なことに全く居心地の悪さなんて感じなかった。隣に一穂がいる、それだけですごく幸せだった。
だけど、それも今日で終わる。あの角を曲がれば、一穂の家はすぐだ。
家の前まで送るのは気恥ずかしいのでいつもはここで別れていたけど、最後なので今日は家まで送ることにした。
「ふ、冬樹、ありがとう。わざわざ途中で降りるの面倒だったよね……」
申し訳なさそうに目を伏せる一穂の頭をくしゃっと撫でた。
「バカだな。そんな風に思った事は1度もないよ。今日までなのが寂しいくらいだよ」
「本当に?」
「うん本当。一穂は寂しい?」
「………寂しいよ。寂しいに決まってるじゃないか」
一穂の目の端に涙が溜まっていて、すごく綺麗だ。
「一穂……」
今にも溢れそうな涙に手を伸ばしかけた時、「かずくん」と舌たらずな声が聞こえた。
振り向くと一穂によく似た女の人が小学生くらいのを女の子の手を引いて近づいてきた。
「楓花」
「楓花ね、ママとお買い物行ってきたんだよ。夜は、かずくんの好きな唐揚げなの。怪我が治ったお祝いなんだって」
「そうなんだ。楽しみだよ、ありがとう」
楓花と呼ばれた少女は嬉しそうににこりと笑った。
「一穂、お帰りなさい。お友達?」
「あ、うん。同じクラスの桜庭君だよ。怪我した時庇ってくれた」
一穂の説明に、女の人は「あら、あなたが……」と言って俺に笑いかけた。
笑顔が一穂に似ている。
「桜庭君、一穂を助けてくれて、その後毎日送迎までしてもらってありがとう」
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