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「あ…………」
「違うからね」
「ごめん。俺、一穂の気持ちをちゃんと聞かないまま会長や伸也に好きじゃないって言ったから、お前が辛い思いをしてるかもしれないって後悔してたんだ。それと……」
この何とも言えないモヤモヤした気持ちが分からなくて……
うっ………。
一穂の手に力が入り、俺は思わず顔をしかめた。華奢だけど、やっぱり男だから力は強い。
「冬樹は僕が会長を好きな方が良かったの?」
痛いのは俺なのに、一穂の方が泣きそうだ。いや、本当は分かってたんだ。一穂が俺に向けてくれる笑顔が他とは違うってことを。
「そうじゃないよ。………良かった」
「えっ?」
掴まれてない腕で一穂をぎゅっと抱き締めた。
━━良かった。一穂が会長を好きじゃなくて。
この瞬間、俺はやっと自分の気持ちに気づく事ができた。
俺は一穂が好きだ。
会長から守ってくれた震える背中、怪我を隠して懸命に歩く姿、美味しそうに唐揚げを食べる顔、俺を呼ぶ優しい声、そういつの間にか一穂が好きになっていたんだ。
いや、違う。初めから気に入っていたのかもしれない。でないとキスなんてしないよな。
チラッと見える一穂の耳が真っ赤で、それを見た俺も恥ずかしくなってきた。
「なんか暑いな」
「うんうん、暑い暑い」
正隆と千景がニヤニヤ笑いながら、膨れっ面の伸也の肩を抱いた。
「そういう事だから、機嫌直せよ」
「そうそう、会長はお前のもんだから」
「でも……」
まだ不満げな伸也に千景が「欲張るなって。冬樹は諦めろ」と言うと、伸也はしぶしぶうんと頷いた。
「伸也の弁当、食べきれないなら手伝ってやるぜ」
正隆が勝手に卵焼きをさらうと、俺もと千景がきんぴらを口に入れた。
「おい、食べるなよ」
「いいじゃん。やっぱりお手伝いさんの料理旨いな、さすがプロ。冬樹も食べるか?」
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