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ぽたり、私の手から滴り落ちる鮮血が生々しい傷痕をつくる。痛みに顔をしかめると、女性は金色の不思議な髪を靡かせて此方側に手を伸ばす。不意に吸い込まれるような感覚に思わず臆して、ぼんやりとしてきた意識の最中で私は彼女に何処かへ連れられていた。
あのアンデッド(化け物)のように変わり果てて行くのだろうか、そう思いながらに私は彼女に地下の駐車場に連れて来られる。エレベーターに居た二人の人間はその隙をついて素早くあの場を降り差っていた、やはり信頼関係等この不条理の中には存在しないのかも知れない。
絶望にうちしがれていると、フッと妖しげな笑顔を浮かべる女は此方を見つめて口を開く。それから彼女は、首を捻って不思議そうに私を見遣り始めた。その瞳に、動揺や迷いの様子は無い、ただ餌食にされたに過ぎないのだろうか。
「私は、りう。貴女は?」
「……っ、あれ。思い出せない」
何故、こんな所に居るのか。それに伴い自分の記憶は徐々に薄れて行く、思いだそうとすると脳裡に浮かぶ光景に靄が掛り何も分からないのだ。やはり、噛まれたせいか理性さえ壊されてしまいそうだ、無性に目の前のりうと言う彼女を嘱したくなった。
「……美味しそウ、何で、こんな事になっタのかナ?」
「……私達は捨てられた玩具。人間は勝手だよ、要らなくなったら捨てて。また新しい人形とかを作る、その怨念がこの歪みきった狭間を生んだの」
「……」
「あぁっ、話しても無駄だったわね。貴女も醜い化け物になるんだから、言葉も要らない。人間同士食い殺し合えば良い」
「違う、私は。帰らなきゃならないの、だから。助けてよ、りう……」
視界に映る、りうがぼやけて見える。涙を流していた為に目が霞んでいたのか、拭おうと手を目に寄せると、彼女は突然単直な言葉を述べた。王なら、救えるかも知れないと、その真意は分からない、けれどりうは泣いていた。
『りう、人間を連れて来たのか?』
「王様、この人だけは元の世界に帰してあげて下さい。彼女は、記憶まで無くしてしまう。これでは可哀相です」
『分かった。但し、この人間には我等の狭間の繋目となって貰う……』
「人間の精神が、持てば良いですけど。流石に無理があるのでは?」
「りう、そしてあなた達を救う為なら、私は協力する。でも、友達になって。私には友人と呼べる人が居ないの……」
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