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『では、契約で良いんだね?』
「はい」
小さな声音で返答し、首肯くと。りうは少し寂しげに笑いながら私の手のこうを見遣った、直後に、滴り落ちる血の雫を彼女は舐める。途端こそばゆさが全身を身震いさせた、不意にされたそのキスのような感覚は氷のように冷たい。
すると、深紅の瞳が瞬きして、彼女は訳が分からないらしく首を捻っていた。やはり人間では無い、今までに篭の鳥でしかなかったりうは、どう人と接するかなんて知らなかったのだろう。だから、私はあえてその行動を咎めはしなかった。
「人間さん、宜しくねって、名前無いのよね。王様、何か良い案は無いでしょうか?」
『なら、繋ぐ意味から取って。紀はどうかな?』
「……紀(カナメ)ですか?素敵な名前をありがとうございます」
王の考えた名を気に入ったのか、最早どちらが玩具人形なのか分からない私は嬉々としてりうと握手をかわした。だけどその手はふいっと払い除けられる、その様子に何かを察した王ははっとして口元に自身の色白い手をあてがう。
華奢だけど、人間とは殆ど変わらない玩具の人形だった。なのに、それはどう見ても人にしか見えないのだ、そんな違和感を覚えて無意識の内に私は顔をしかめていたのか。りうが、突拍子にも無い言葉を言い放つ。
「王様は、人間よ。紀、貴女と同じように彼も、この世界に迷いこんだ住人なの。だけど、少し違うのは……」
『言葉が過ぎるよ、りう?』
「っ、申し訳ございません。王様」
何かを言い淀む彼女、その目は動揺によってか泳いでいる。なにか訳があるのだろう、しかし彼はそれを語る事を認めなかった、逆鱗に触れてしまったように王は明らかに怒りを露にしている。
心なしか、りうは王に嫌われている様にも見えていたが。恐らくは見間違いであろう、一瞬だけ垣間見た青年の悲壮な顔が脳裡に確りと焼き付いてしまっていた。桃生告げ、そして彼女を見下す眼差しは冷気さえ放つ程に冷たい。
まだ、余り思い出せない記憶を思想していた。その最中に浮かんだ一人の少年は目の前にある塀をよじ登り叫ぶ、少し奇妙なのは彼が肌身離さずにフランス人形を開けたリュックに入れている光景だった。しかし、私はその人形を知っている。
自律人形(アンドロイド)は、記憶の中にある人形と瓜二つの顔立ちをしていたのだ。本人はヴァンパイア派生のアンデッド型だと言うが、実際には違うのかも知れない。
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