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と、気が動転したのか否か。相手を刺激するような暴言を吐き捨てた彼女は、不意にその場から姿を消し、瞬時にして少年の背後に出現する。刹那、口を開き呑気に歌を奏でるりう。けれど、私はこれが何を意味しているかなんて知りもしなかった。
「……粉々に~砕けた世界、紡いでいた欠片は散り行く~。人間を全て~敗北に染め上げて~、真っ赤な飛沫が~吹き上が~る~」
「っう、この歌は……!」
グチャッ
不快な音を立てて、少年が俯せになる形で崩れ落ちた。一体何が起きたのか、理解を越える範囲だった為に私は狼狽える間も無く彼女は無意識の合間に囁く、歌を武器にそれは特殊な雑音(ノイズ)だからと。
そして、文字通りに少年が血飛沫を上げて絶命した。恐らくは彼女はこの歌を奏でる事により人間を殺したのだろう、前にノイズは人を狂わすと聞いた事がある。雑音によって、無惨な惨状を再び目の当たりにした、だけど不思議と恐怖心は沸かない。
見覚えのある光景に、私は自然と笑みを浮かべていた。何故だろう、惹かれるように私は彼女を見つめながら微笑んでいる。微笑、そう表現するのが一番しっくりくるような気がした。
「ふふっ、あはははははっ!」
「……王様と似てる、紀も同じなのね。でも、これも必然なのかも知れないわ。さてと、部屋に案内するわ。此方よ」
「違う、私は。帰らなきゃならない、違う、違う。違う……!」
「紀、混乱しても何も考えは浮かばないわ。少し休んで行って頂戴、そうしなければ、私が咎められる」
「……う、うん。分かったよ、りう」
何処か懐かしい部屋に案内され、私は彼女の手を繋いだままに扉の前に立ち尽くす。と、りうは速やかに此方の手を離して苦笑を漏らして囁く、思い出は無くさないでねと。その言葉に思わず振り返るも、彼女は既に部屋を出た後だった。
簡素、そう思いかけてベットに横たわる、だけど実際には天窓の備わった豪華なまるでお姫様が使うような寝具だった。心地好い肌触りと、陽の香りが徐々に私を眠りへと誘って行く。窓から入り込む月明りが、黒のグランドピアノを照らしていた。
「……おやすみなさい」
落ち着く空間は、偶然にも私の知る屋敷の内装と似ていた。あの日は、誰かと笑い合って、それからさよならと言葉を放った気がする。カーテン越しに少女だろうか、多分自分はその裏に隠れて無邪気な笑顔を浮かべていた。
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