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「あの……一目でいいので、会わせてもらえないでしょうか」
妻の言葉に、男は実につまらなさそうな目を向けた。
「奥さん。約束が違うでしょう。あまり困らせんでくださいな。ねぇ」
男はやはり俯きがちな夫へと声を掛ける。そのたびに、彼は肩をびくつかせ、ゆっくりとだが頷くしかできなかった。
「まぁ細かい手続きとか、内容は私の管轄外なので、よくは知らないですがねぇ」
「そこをなんとか、お願いします」
妻は深々と頭を下げた。
男はそれを面倒くさそうに見つめ、後ろを見やった。
「だ、そうですがねぇ。あとは任せますよ?」
男の声に釣られるように、部屋の奥……暗い闇から溶け出るように、黒スーツの男が姿を現せた。
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