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「もっと声張って! 怒って、相手を威嚇して。そこ二人入れ替わって。そう」
紗月の指示が飛ぶ。声音は厳しいが、その内容は的確で、部員は懸命についていく。
「雪! もっと気持ちを前に出して。じゃないと陽菜に持っていかれるよ」
「はい!」
雪が演じるのはヒロインの友人役。友人とはいえ、その出番はヒロインに匹敵し、ほぼWヒロインといえる。華をもつ陽菜と並ばなくてはならない。
「じゃあ、ここの場面を最初からやってみよう」
手を叩き、演技開始の合図が響く。
練習終了後、紗月は一気に部員に囲まれる。
「紗月さん、ここの動きはどうすればいいですか」
「ここの掛け合いが上手くいかないの」
「後で冒頭のとこ見てください!」
次々に飛んでくる言葉に戸惑いながらも、頷いた。今までも質問をされたことはあったが、今回は演出という立場で、質問もしやすいのだろう。
「分かった。順番にやっていくから。でも居残り練習もほどほどにしないと、ね」
「はーい」
ふと、後輩が遠慮がちに紗月の袖を引いた。
「あの、今回はどうして紗月さんは役者をしないんですか? いつも陽菜さんと主役を争ってるじゃないですか」
「確かに。だって紗月は―― 」
「待って待って、争ってはいないよ。配役は先生が決めるものだし。それに、演出をやりたいって私が先生にお願いしたんだ。本当は役者と掛け持ちでしたかったけど、さすがに駄目って言われた」
えーっと大合唱が起こる。次第にざわざわした声が大きくなる。
「はいはい、この話は終わり。練習するんでしょう?」
部員が一気に動き出し、配置につき始める。すでに帰る用意をしていた陽菜が、少し離れたところから声を張りあげる。
「紗月!」
「あ、陽菜。ごめん、今日は、」
「うん。先帰るね。雪ちゃん、一緒に帰ろう」
「! はい」
雪は少し驚いたようだったが、陽菜の隣に並んで帰っていった。
「……」
「紗月、準備出来たよ!」
「あ、うん。じゃあ、始めようか」
その後、最終下校時刻ギリギリまで練習は続いた。
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