『 どこにも行けない回遊魚 』

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「来月、死ぬことにした」  ソファーで膝を抱えた山田が、どっかに魂半分落っことしてきたような顔で言った。  山田とは高校の時にホラーサークルで意気投合し、それ以来3年以上の付き合いになる。  彼はテスト前夜に「死にたい」と絶望し、彼女にフラれた時も「死にたい」と嘆き、バイトに行きたくない時も「死にたい」と途方に暮れた。  だから多分、今回も大した理由はない。留年しそうだとか、家賃が払えないとか、そんなとこだろう。  山田が死ぬ死ぬ詐欺をやるたびに、オレはあることを提案する。 「どうせ自殺するなら、これ見てみてくれよ」  そう言って、オレは山田にタブレットを手渡した。 「なにこれ」 「見ると1か月以内に死ぬってウワサの動画」  見ると死ぬ絵画、音読すると気が狂う詩、聞くと呪われる怪談。その手の都市伝説は昔から数多く存在している。  有名なのは、終焉の画家『ズジスワフ・ベクシンスキー』の作品、それから作家で詩人の『西条八十』の『トミノの地獄』だろう。今、山田に見せたのもその類のものだった。 「これ最近ネットで流行っててさ。本当に呪われるかは知らねェけど、ホンモノっぽい心霊動画なんだって。ウワサがマジなら、来月お前は生きてない」 「へえ。おもしろそうじゃん!」  この〇〇すると死ぬ系の都市伝説は、すぐに効果を発揮しないことが多い。3日以内に不幸が訪れるとか、1週間後に死ぬとか。呪いの効力を待つ間に、山田の気持ちが回復するって寸法だ。
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