『 どこにも行けない回遊魚 』

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「魚住が来るの待とうと思ったけど、先に見るか?」 「見る見る。アイツ来たら、もっかい見ればいいじゃん。俺はとっとと呪われて死んでやる」 「はいはい」  雰囲気作りのために照明を落として、2人でタブレットを覗き込んだ。 「あれ、鈴原も見んの? 呪われちゃうぜ?」 「ぜひオレの分まで呪いを引き受けてくれ」 「任せろよ。てか、これ見ると具体的にどうなんの?」 「気が狂って自殺する」 「ふうん。王道の、見ると死ぬ系都市伝説かあ。あ、再生すんぞ」  タップして再生すると、薄暗い子供部屋のような場所が映し出された。  2段ベッドが部屋の大半を占めるような狭さで、カメラの焦点はカーテンの閉められた窓に合わせられていた。どうやら夕方のようで、部屋全体がほのかにオレンジに染まっている。どこにでもあるような、いたって普通の子供部屋だった。  静止画のような沈黙が続き、焦れたように山田が身じろぐ。  そして、それは突然現れた。 「え?」  カーテンになにかの影がかかったかと思うと、ものすごい速さで落ちて行った。  窓の外をなにかが落下して、その影が黄色っぽいカーテンに映ったようだった。影が落ちたあと、わずかな間を置いて、『どすん』とも『べちゃ』ともつかない音がする。 「いまの……」  そう言ったのは山田だったのかオレだったのか、定かでない。  なにが落ちて行ったのか理解できないうちに、また窓の向こうでなにかが落下した。今度は、その影を目で追うことができた。  あれは――。 「人間、だったよな……?」
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