角を曲がれば、江戸……

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 半衿屋(はんえりや)と書いてあるのに、中では、巣鴨で売っているような激安のご老人向けの服を売っているし、と思ったとき、 「あっ、すみませーんっ。  今日はそちらに停めてくださーい」 と可愛らしい柄の赤い着物を着た娘が、走り出てくる。 「入れなくもないんですが、今日は出来れば、そちらに」 と防波堤近くの駐車場を指差し、叫ぶその娘の顔には覚えが会った。 「篠原」  窓を開け、呼びかけると、はい? と総務の篠原琴音(しのはら ことね)は訊き返しながら、こちらに来た。 「ああっ。  支社長っ」  何故、此処にっ、と逃げようとする琴音の腕を冬馬はつかむ。 「お前、こんなところでなにをしている。  うちはバイトは禁止だぞ」  すすすす、すみませんっ、と琴音は苦笑いして言ってくる。 「お金はもらってませんっ。  この商店街にうちのおばあちゃんちがあるので、お手伝いしているだけですっ」  こちらですっ、はいっ、と手で示したのは、まさしく自分が探していた駄菓子屋だった。
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