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不穏な宿
一週間の出張を命じられ、会社指定の宿に泊まりこむことになった。
でも、割り振られた部屋に入るなり嫌な感じがして、俺はフロントに部屋を変えてほしいと訴え出た。
結果は『No』。田舎で周りに宿泊施設がないから、一軒だけ存在しているこのホテルは結構需要が高く、常に満室で空きの部屋はないらしい。
仕方がないのでこの部屋に泊まることにしたが、何かあるならそれはそれではっきりさせたいと、俺は室内のあちこちを見て回ることにした。
壁にかけられた絵の裏やテレビの背面、冷蔵庫の裏側など、確認のために見回るが、取り立てて不審な点はない。
自殺者が出たホテルでは、その部屋にこっそりお札が貼られているという話をよく聞くが、その類が出てこないなら、この嫌な空気は俺の気のせいか、何かあるとしてもそこまで影響の出るものではないということだろう。
そういう形で気持ちを決着させ、明日のためにも寝ておくかとベッドに込んだのだが、今まで気にならなかったのに、何故か今夜に限って『それ』が気になり、俺は枕を包んでいるカバーを外した。
…結論から言うと、お札の類は一枚も貼られていなかった。ただ、かなり分厚い白布で覆われていた枕本体には、印刷ではなく、書き込んだとしか思えない細かな経文のようなものがびっしりと綴られていた。
…なるほど。そうきたか。
出張はまだ終わらないから、もう数日この地には留まらなければならない。その間、この部屋に何食わぬ顔で泊まり続けるか。それとも他の場所で夜明かしをするか。
考えなきゃならないだろう。
不穏な宿…完
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