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「またな」
「おう、また明日」
高校の同級生に別れを告げた坪井翔琉はバスを降りた。
バス停は翔琉が住む大型マンションの目の前。30秒ほどでエントランスに入ると管理人室の前で足を止めた。
小さなガラスの窓口にはカーテンが引かれていて『巡回中』の看板が出ている。しかし、その向こう側、管理人室の奥にゾワゾワする人の気配はあった。管理人の陽に焼けた醜い顔を思い出し、不快感で全身に鳥肌が立つ。
1分間。……部屋の奥から漏れる気配を受け止めて固まっていたのは、ちょうど1分間だった。翔琉は小さなため息をつき、呪縛から解き放たれたように歩き出してエレベーターに乗った。
7階の自宅に入ると鞄を放り投げて電子レンジを覗き込む。そこには、いつものオムライスがあった。
電子レンジのボタンを押し、冷蔵庫から牛乳とケチャップを取る。
テレビのスイッチを入れるとバラエティー番組をやっていて、60歳を過ぎて太り気味の演歌歌手が政治家の不倫を批判していた。同じ60代の管理人はずっと痩せていて顔は不細工なのに、演歌歌手の顔が管理人の顔とダブって見えた。
「チェッ」
舌打ちと同時に、チーンと電子レンジが鳴った。
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