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「ただいまー」
もうすぐラスボス戦になるという時、玄関で母親のトモエの声がする。
翔琉は無視してゲームを続けた。返事をしようとしまいと、いずれ母親が不躾にドアを開けるのは分かっている。
「ただいま。……返事ぐらいしなさいよ。また、遊んでいるのね。ゲームばっかり」
トモエが翔琉の部屋を覗くのと、話すのは同時だった。40歳を過ぎたトモエの顔には小じわが目立ち、疲れているのが目の下のクマで分かった。それでもふっくらとした唇を彩るルージュやくびれた腰がつくる身体のラインといった随所から男を誘う色気が滲みでている。
翔琉は、息子にさえ色香を振り撒くような母親が嫌いだった。それが、母親に女を感じる自分に対する嫌悪だと気づくほど大人ではなかった。
「母さんこそ、もう9時だよ」
掛け時計を指す。母親は近所のショッピングセンターでパートをしているだけで、本来なら午後5時には帰っているはずなのだ。
トモエは「残業だったのよ」と言ってドアを閉めた。
「チェッ」……逃げたな、と締まったドアに批判をぶつける。
その日のラスボスは体育館に現れた。少しずつ体力を削り、攻撃も受けて死霊の力を弱めなければならないのだが、肩を狙って投げたレンガが少女の額に直撃して頭骸骨を割ってしまい、やはりエロティックなムービーを見ることが出来なかった。
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