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その日、普段ならば午後11時ごろには帰ってくるはずの父親、坪井譲司は帰宅しなかった。そのことに翔琉は気づかなかったし、トモエは気づいていても心配する事がなかった。
朝になり、食卓テーブルをはさんだトモエと翔琉。それでも譲司がいないことは話題に上らない。
朝のテレビバラエティーが始まる。普段なら、そこでオープニング音楽に合わせた譲司の下手な口笛が鳴るのだが、その音がなかった。
「父さんは?」
「さぁ、徹夜みたいね」
パジャマ姿のトモエはそっけなく言って、フォークで突き刺したウインナーソーセージをくわえた。口笛を吹くように円を作った唇から、音ではなく肉塊が突き出ている。
翔琉はウインナーソーセージから目が離せなくなって、それが唇の向こう側に消えていく様を見ていた。
「どうしたの?」
トモエの声に、慌てて視線を逸らした。
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