恋とカメラと百舌鳥八幡駅

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 実際中百舌鳥駅から百舌鳥八幡駅までは一キロにも満たない距離だし、歩いても十分足らずで着いてしまう。そもそも私たちは大阪府立大の学生なので、どちらの駅に行くにしてもそう遠くないところに住んでいるのだ。それに撮影スポットだって、駅のホームではなく、その線路沿いで十分きれいに撮れるところがある。なのになぜ電車を使うのか、提案された時から不思議だったのだ。 「いいかね香苗君、我々はただで電車を撮らせてもらっているんだ。ならば少しでもその鉄道会社に貢献するのが筋というものだろう」  なるほど、だから先輩は中百舌鳥から電車に乗ることにしたのか。基本変わった先輩だけど、こういうところは真面目というか、いろいろ考えているのだなあと思う。  そういえば、いつも先輩は駅で電車の撮影をする時にこうも言っていた。 「絶対に乗客や駅員に迷惑をかけてはいけない。あくまでルールを守り、粛々と撮影するのが最低限のマナーだ」  今回の撮影日時を今日土曜日の九時過ぎからにしたのもきっとこれが理由なのだろう。下手な時間だと通勤通学ラッシュに当たるのでどうしても邪魔になってしまう。それを避けつつ、泉北ライナーが走っていて人も少なそうな時と考えると、たしかにこの時間帯が一番良い。  表にはなかなか出てこないけれど、こういう気配りも出来るような優しさを持っているんだよなあ。まあ、それを知っているからこそ、私はこの先輩と一緒にいるのだけれど。  そんなことを考えていたら、ふと、先輩と知り合った時の事を思い出した。     
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