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「なあ。青。今までただがむしゃらに進んできただけだったが、ちゃんと立ち止まって考える必要もあるかも知れん」
「立ち止まって考える?」
赤は神妙な面持ちで続ける。
「何故黒羊が俺達を生かしたのか。その事実を探求することを俺達は放棄してきた。最初は遊び程度、本当に俺達が作った組織を潰すために奴は存在しているとそう信じてきた。だが、以前合間見えてその考えは全く違うことを理解した。奴は…俺達に対し何か執着がある」
「…それは僕も何となく分かってたよ。ねえ…覚えてる?父さんと母さんがどう亡くなってたか。僕ね、違和感があったんだ。女も子供も容赦なく焼き尽くした黒羊がどうして父さんと母さんにだけ自ら手を下したのか。どうして僕らを生かしたのか。あいつの言葉を良く思い出して思ったんだ。奴は…僕達に殺されたいのかも知れない」
暫しの静寂が二人を包む。その静寂を破ったのは赤だった。
「奴が罪の意識に耐えられなくなったとでも言いたいのか?」
「それは僕にも分からないよ。正直、あれだけのことをした男が罪悪感を抱いたとも思えない。けど…何かあるんだ。確実に。それを知らずに奴を殺せば僕らは恐らく一生後悔すると思う」
赤は深くため息をついた。
「何も知らず、奴をただ憎んで殺せていれば良かった」
「僕もそう思うよ。こんなに無駄に悩む必要なんてなかった。けど…あいつは僕達が思ってた以上に強かったから。もっと強くなって、奴を圧倒的に叩き潰して、奴の口から…真実を聞きたい」
強く拳を握り締める青に、赤はそうだなと頷いた。
ずっと目を背けてきた事実の一片。知るのが正しいのか、知らない方が良いのか分からない。だが…知りたいと。そう思った。
―END―
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