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身を焦がす熱から逃れんとおぼつかない足を踏み出した。背に走った引きつれるような痛みにぐうと奥歯を噛み締める。周囲を包む赤色、燃え盛るそれは全てを舐め尽くそうと激しく火の粉を上げた。
焦げ付く匂いが鼻について、思わず熱風を喉へ招いてはむせ返る。
ああ、今は逃げなければならないのだ。はやくはやくと気ばかり急いて、己がこの期に及んで生に執着していることに驚いた。
ふらつく足が何かやわらかいものを踏みつける。揺らぐ身体、そのまま転倒すれば原因のものは殆ど炭のようになった『ひとの腕』で、目にした途端に一時は収まっていた憎悪が再び心の内を燃え上がらせる。
全て燃えてしまえばいい、と、離さぬようしっかり握った刃は思いに応えるが如くきらりと光を帯びた。生にすがる心はいつしか煙と共に霞んで、もう起き上がる気力も無い。この憎しみと共にこのままここで朽ちるのだ。
諦念にも似た覚悟へと身を委ねたその時、声がした。
「来い!」
刹那、腕が強い力で引かれる。浮いた身体はどうやら何者かに抱え上げられたらしかった。けれども乾き切った喉から音は出ず、徐々に視界を覆い始める黒は深まっていく。薄れる意識の遥か遠くで、炎を飲み込む水の音がやけにはっきりと聞こえた気がした。
『最果ての焔』
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