てくてくさんの親指

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 急いでカーテンを閉めて、なるべく平静を装って、見てないふりをして電気を消した。さあもうねるぞーって演技をしたの。電気を消した時にどうしても気になって窓の方を見ちゃったの。  影があった。ただ、それだけ。特に動かなかったし、何かしようって、そんな感じはしなかった。でも、外の電灯の光がカーテンに映しだした影が、確かにAさんの部屋の前にあった。  Aさんは泣き出しそうになって、でも声を上げたら見えてることに気づかれちゃうから、ゆっくり「てくてくさんの親指」を手にとって、ずっと握りながらベッドに入った。  朝になったら影は消えてたし、家族も「ぺたぺた」なんて足音は聞いてないっていう。悪い夢だと自分に言い聞かせて、いつもどおりの日常に戻ろうとしたけど、どうしても道の角、物陰、路地の入り口に気が向いてしまう。怯えてしまって、あの影に気を取られて、恐ろしくて恐ろしくて、気もそぞろ。  もう何も、手につかなくなっていく。  成績も落ちていくし、やつれていくし、無意識に爪を噛むようになったり、何をしていても周りが気になって仕方ないって感じで、結局彼氏とも別れることになっちゃって、どんどん不幸になっていったの。  もうこんな生活耐えられないって思って、てくてくさんみたいな影が見えた時に、そっちに向かって走った。もうやめてって、助けてくださいってお願いするために。     
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