てくてくさんの親指

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 曲がり角を曲がった瞬間に怖気がする。景色は確かにいつもの町並みなのにどこか違う場所のような感覚がする。ここにいてはいけない、すぐにどこかに行かなきゃ。そんな感覚に陥る。  曲がり角の先にいたのは、腰の前に二つの目。その間に鼻。口はなく、そして二本の親指のない裸足。それが私を見てる。綺麗な瞳で私を見上げている。ものも言わずに、ただじーっと待ってる。  冷や汗が吹き出す。涙が溜まってあふれだす。胃液が逆流する。喉が痛む。心臓の音がうるさい。息が詰まる。頭痛が始まる。気持ち悪い。気持ち悪い。何も考えられない。身体が軋む。何もできない。身体が動かない。逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。どうしても、どうにかして、ここから、ここから、ここから逃げ出さなきゃ。  動かない身体を、なんとか恐怖で動かす。逃げろ、逃げろ、とそればかりを反復する。逃げろ、逃げろ、逃げろ。でも、耳には確かにあの「ぺたぺた」という音が聞こえている。追ってきている。逃げなきゃ。足がちぎれても、心臓が破けても、のどが焼け付いても、頭がはぜても、身体のどこがどんなに成っても。逃げろ、逃げろ、逃げろ。  どこかわからないところへ、どこへもいけない場所へ。  視界が狭まる。呼吸ができなくなる。心臓が張り裂けそう。足がもつれる。倒れこむ。後ろを振り向く。  その瞬間に「てくてくさん」の言葉の意味が解った。     
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