約六畳神話大系

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約六畳神話大系

 大学三年生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。日常系百合漫画の美少女達に一方的な恋心を寄せ、知識は電子掲示板に学び、遅寝早起きを常とする骨と皮の肉体……私も大学に入学した当初は薔薇色のキャンパスライフにむけて恐れることなく突き進んでいた。しかし今となっては、この創造的な知性と豊かな人間性を活かす術もなく、この約六畳の学生宿舎の一室に引きこもっているのである。  首都東京を遠く離れた未開の原野に突如として未来都市が現れる。そこが我等の学び舎である。  南北数キロメートルにおよぶ莫大なキャンパスは研究所群の一角であり、日夜怪しげな研究が行われているとかいないとか。大学周囲の道路は、内閣府より認定を受けたロボット実験特区であり、セグウェイの連隊が走行している。未確認飛行物体の目撃情報こそ無いが、駅前に鎮座するロケットは、学長の専用機だとの噂だ。他にも、キャンパスの一部が変形して巨大戦闘ロボットになるだとか、宇宙人が攻めてきて皇居を有する東京が壊滅した際には地球防衛作戦本部になるだとか、SFの世界と現実が入り混じった話が妙に現実性をもって語られている。  私の住む学生宿舎は、通称、グランドスラムと呼ばれている。 大学のキャンパス内には、いくつかの宿舎群がある。どこも劣悪な環境とされているが、家賃が安い、友達と暮らせる、どこよりも大学に近いといった理由で、宿舎住まいを選ぶ学生は多い。最近は宿舎の改装も進んでおり、以前ほど住み難い環境ではなくなった。 だがグランドスラムだけは違う。建設当時は前衛的でオシャレだったと思われる建物は、今となっては設計ミスとしか思えない。湿気が多く、空気が悪い。したがって年中かび臭い。某国の監獄のほうがマシだとさえ言われている。学内に知らぬ者無しである。  それでもなぜ私は学生宿舎に住み続けているのか。image=507989075.jpg
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