クリスマスの夜に

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クリスマスの夜に

今日はクリスマス。キリストの誕生日。その聖なるお祝いの席に、私の売る花が似つかわしくないことくらい、分かっていた。私の売る花は、道端で拾った惨めで情けない花だ。華やかな食卓を彩るには似つかわしくない。玄関先に飾るにしても、犬小屋を飾るにしても。それすら認められないような、そんな花だった。お金がないから、路肩にひっそりと咲いている花を摘み取ってそれを売るしかないのだ。そんな花はもちろん、誰も買わない。 けれど私はそんな花たちが好きだ。みんなには気づかれないけれど。目を引くような美しく華やかな花ではないけれど。でも、可愛らしい。ときどき、私には花の声が聞こえるような気がする。『わたしに気づいて。わたしを見て』『あたし、こんなに綺麗な花を咲かせたのよ』花たちは、私にそうやって訴えてくる。でも、忙しそうに早足で歩く、貧しさとは無縁の人たちには聞こえていないみたい。 夜の冷たさと暗さに追われて人はみんな家に帰って行ったのだろう、町は静かになっていた。気づけば、私と、籠に入った花たちと、街灯だけが通りに残されている。毎日、道を歩く人がいなくなったら家に帰ることにしていた。摘み取った数と全く同じ数のままの花たちを持って、帰路についた。
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