五 愛する人

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「何しに来た」  ふてぶてしい顔で聞かれ、ルスタはあえて笑みを作った。相手が最も嫌うであろう、見下す目で笑む。 「頭が高い。私は次期国王であるぞ?」 「何っ……!」 「お前が色々と策略を巡らす間に、審議会は当然の判断を下した。いかれた男が玉座に座れると思ったか」 「貴様!」  激高したグラエムが、剣を振りかざして突進してくる。ルスタは素早く外套のボタンを外して脱ぐと、グラエムに向かって放り投げた。  気が逸れた一瞬の隙。  そこを見逃さずにルスタは剣を振るった。  首を斬り落とす勢いで剣を振り、ピタリと刃を止めた。ほんの少しだけ皮が切れた首筋から、血が垂れる。 「……斬らぬのか」  憤怒の目が見上げてくる。だが、グラエムよりもルスタの方が強い怒りを覚えていた。  この男がゼアンを使ったことで、彼は傷ついた。傷つき、悩み、そして最低な選択をしたのだ。  それがゼアンの選択で、彼自身がわかっていてやったことだとしても、ルスタはグラエムを許すことなど出来なかった。  本当のところでは、このまま打ち首にしてしまいたいところだ。ゼアンに殺害を命じた罪で、罰することは出来る。  だが――  ルスタは剣を掴む手に力を込めた。刃が当たっている皮膚の部分が更に深く傷つく。 「……ここで死ぬよりも、酷い罰がお前を待つ」
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