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優しく名を呼ぶのは、ルスタだった。ゼアンはぼんやりとその顔を眺め、自分の頬に触れていた手が彼のものだったと知る。だから、温かく感じたのだろう。
その温もりにまた、目を閉じたけれど、少しずつ記憶が戻ってきた。
何故、ここにルスタがいる?
咄嗟に起き上がろうとして、体中が痛んだ。
「って……!」
「無理をするな。まだ動けないんだぞ」
「いや、まっ……、なん、で、あなたが……」
ゼアンを寝かしつけるルスタは、以前と様子が変わらない。何事もなかったかのようにゼアンを看病に、水を飲むかと聞いてくる。
だが、そんなことしている場合ではないだろう!
思いっきり怒鳴ることが出来ない分、ゼアンは心の中で叫んでいた。今、ルスタは正式な王位継承者になっているはずだ。グラエムを捕らえ、ルスタはすべてを知ったはずだ。自分が彼に雇われていたこと、ルスタに近づいた目的もすべて。
なのに、どうしてここにいる?
まさか、ルスタは手紙を読まず、ゼアンを病院に連れてきて、そのままなのか。だとしたら、ルスタの身が危ない。いつ、グラエムが命を狙いに来るか……。
混乱するゼアンを見て、側で様子を窺っていた男が口を挟んだ。
「おい、坊やに事情を説明した方がいいんじゃないのか? でないと、落ち着きそうにねぇぞ」
「え? ああ、そうか。ロス、しばらく席を外していてくれないか」
「なんで」
「察しろ」
短い言葉で追い出されたロスという男は、肩を竦めて出て行った。ロスという名に、ゼアンは引っ掛かりを覚える。どこかで聞いたことがある名前だった。
しかし、それを思い出す前に、「ゼアン」と呼ばれ、ルスタの方を向いた。
「大丈夫か。少し、話をしても構わないか」
「はい……。いや、それより、あのっ……!」
グラエムのことを伝えなければ。
そう逸るゼアンに対し、ルスタは落ち着いていた。頭を撫でて、「落ち着け」と声をかける。
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