五 愛する人

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 優しく名を呼ぶのは、ルスタだった。ゼアンはぼんやりとその顔を眺め、自分の頬に触れていた手が彼のものだったと知る。だから、温かく感じたのだろう。  その温もりにまた、目を閉じたけれど、少しずつ記憶が戻ってきた。  何故、ここにルスタがいる?  咄嗟に起き上がろうとして、体中が痛んだ。 「って……!」 「無理をするな。まだ動けないんだぞ」 「いや、まっ……、なん、で、あなたが……」  ゼアンを寝かしつけるルスタは、以前と様子が変わらない。何事もなかったかのようにゼアンを看病に、水を飲むかと聞いてくる。  だが、そんなことしている場合ではないだろう!  思いっきり怒鳴ることが出来ない分、ゼアンは心の中で叫んでいた。今、ルスタは正式な王位継承者になっているはずだ。グラエムを捕らえ、ルスタはすべてを知ったはずだ。自分が彼に雇われていたこと、ルスタに近づいた目的もすべて。  なのに、どうしてここにいる?  まさか、ルスタは手紙を読まず、ゼアンを病院に連れてきて、そのままなのか。だとしたら、ルスタの身が危ない。いつ、グラエムが命を狙いに来るか……。  混乱するゼアンを見て、側で様子を窺っていた男が口を挟んだ。 「おい、坊やに事情を説明した方がいいんじゃないのか? でないと、落ち着きそうにねぇぞ」 「え? ああ、そうか。ロス、しばらく席を外していてくれないか」 「なんで」 「察しろ」  短い言葉で追い出されたロスという男は、肩を竦めて出て行った。ロスという名に、ゼアンは引っ掛かりを覚える。どこかで聞いたことがある名前だった。  しかし、それを思い出す前に、「ゼアン」と呼ばれ、ルスタの方を向いた。 「大丈夫か。少し、話をしても構わないか」 「はい……。いや、それより、あのっ……!」  グラエムのことを伝えなければ。  そう逸るゼアンに対し、ルスタは落ち着いていた。頭を撫でて、「落ち着け」と声をかける。
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