四 あなたのために出来ること

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 リンダル王国はついに次期国王を決める審議に、本格的に取り掛かることになった。現国王であるシャルル二世の容態が悪化したためである。  城下町では誰が国王に選ばれるのかで話題が持ちきりだった。現段階で有力候補とされているのは貴族から支持を得ているグラエムと民衆の間で絶大な人気を誇るルスタだった。審議会は国政が民衆の心を掴むためには、ルスタを国王とし、物騒な噂のあるグラエムは避けるべきではないかと話し合われた。一方で、貴族の力関係も無視できないとして、どちらに決まるかはまだ様子見の段階である。  しかしここで、ルスタを恐れるグラエムは策を講じることにした。自分の敵はルスタのみ。他の敵は排除しており、それらと同様にルスタにも王位継承権争いから退場願いたいものである。  主人の命を受け、イゴールはルスタから最も近い場所にいる男、ゼアン・ジュードを呼び出した―― ***  毎度のようにイゴールから攫われて、ゼアンは訳もわからないままにグラエムの屋敷まで連れてこられた。前回投げられた調度品はもう新しい物が揃えられている。癇癪で壊して、すぐに新品を購入して。そんな贅沢な暮らしが出来るのだから、羨ましい。  室内を見回していたゼアンの頭をイゴールが叩いた。「前を見ろ!」と怒鳴られ、言う通りにグラエムと向き合う。人を見下ろす、鋭い瞳に射抜かれて、ゼアンはぼんやりと考えた。――あの目は、涙を流したことがあるのだろうか。  いまいちしゃきっとしないゼアンに対し、グラエムは苛立った様子で用件を切り出す。 「お前を使うときが来た」 「というと?」 「わかるだろう。既に審議会は次期国王の選別に入っている。候補者は私と、もう一人。ルスタ・ハーリスだ。その男がいなくなれば、私は国王の座に座れる」  グラエムが顎で指示し、イゴールは短剣を乗せた台を持ってきた。懐に入れて隠せるくらいの小ささで、殺傷能力は低そうだ。  しかし、続くグラエムの言葉に戦慄した。 「毒が塗ってある。少しでも傷つけることが出来れば、ルスタは苦しみながら、やがて息絶えるだろう」
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