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「それは……」
「お前はそれを私に隠した。つまり、思うところがあって隠したのだろう? 私を裏切るつもりか」
刃はいつでもゼアンの首を斬れるよう、構えられていた。今更、短剣を取り戻し、襲い掛かっても遅いだろう。
ゼアンは考えた。
自分の命が助かる方法を。
「待ってください! 私はその……そういうのがバレると恥ずかしいと思って、言えなかっただけです。お前のせいで失敗したと責められるかもしれないと思い、隠しました。そのことはお詫びいたします!」
必死に頭を働かせ、言葉を紡ぐ。
「ですが、私に反意はありません! 今も変わらず、グラエム様のために働いております。ルスタ様が未だに私を囲い、背後にグラエム様がいると気付かれていないのがその証拠です。私はいつか、こういう日が来るだろうと思い、恋人の役目を担ってきました。男の恋人役に我慢して耐えてきたのは偏に……金のためです」
商人は金を第一に考えなければならない。金がなくては、食べることも、使用人に給金を出すことも出来なかった。暮らしていくためには金が必要で、そのためには腹で何を考えていても、表向きは笑顔を浮かべるべきである。
だからゼアンは笑った。太々しいくらい、大きな笑みを浮かべて、交渉に入る。
「私はルスタ様を殺してきます。ですが、殺してそれで終わりでは困るのです」
「何?」
「私が求めるのは金と安全です。グラエム様、私が見事ルスタ様を刺した暁には、始めに約束いただいた金の他に、国外へ安全に逃げられる保障もつけていただきたい」
恐れもせず、はっきりと告げることが出来た。面を食らったグラエムを見て、ゼアンは商人の顔で答えを待つ。
「貴様! グラエム様に対して無礼な……!」
いきり立ったイゴールに力が入る。それを「待て」と止めたのはグラエムだった。
「金か? お前が欲しいのは、それだけなのか」
「商人にとって金は命ですから。しかし、金をもらってもその後、貴族殺害の罪で処刑されては意味がありません。命を得るために、保障が欲しいのです」
「なるほど……」
グラエムの顔に笑みが乗る。ゼアンも合わせて、笑みを返した。
交渉は成立した。
「イゴール、ペンと紙を持ってこい」
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