四 あなたのために出来ること

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 ルスタは花を机の上に置いて、引き出しを開いた。そこに入っている布を水差しの水で濡らし、枝の折った根元を包む。そうして丁寧に花が潰れないように置き直したところで、振り返った。 「だが、折らずともそのままにしてくれば良かったのに。ここからでもリンゴの木は見れるだろう」  そう言って、窓の外へ視線をやる。ゼアンも同じく、外を見た。  窓際に座って見えるのは中庭だ。そこにあるリンゴの木はよく見える。ゼアンが折った枝の他にも、小さな白い花をつけている。 「見えますけど、手元には置けないでしょう。あなたの手に渡したくて、持ってきたんですよ」  立っているルスタの手を引いて、相手を座らせた。脚を広げて座っているゼアンの前に膝をついたルスタを更に引き寄せて、顔を近づける。  顎と頬と鼻と、それから唇にもキスをして、背中に手を回した。ちゅ、ちゅ、と音を立てて、色んな場所にキスをする。  耳の裏にキスをすると、微かに体を震わせ、笑う声がした。 「ゼアン、くすぐったいぞ」 「俺がいつもされていることですよ」 「君は赤くなるから可愛い」  耳元で囁いて、同じようにキスを返される。ルスタは唇を這わすだけでなく、耳たぶを軽く口に含んだ。艶めかしい音が響いて聞こえ、ぞくりと背筋が震える。  わざと羞恥心をかき立てるように、ルスタは「ほら、赤くなった」と告げてくる。意地悪な言葉にゼアンはきゅっと唇を引き結んで、されるがまま、彼の舌による愛撫を受けた。暖かい吐息さえも心地良い快感のひとつだ。  しばらくゼアンをいたぶって遊んでいたルスタだけれど、一向に抵抗を受けないのを見て唇を放した。 「どうした。今日は大人しいな」 「……そうですか?」 「またどこか怪我をしたのか?」  眉根を寄せ、心配そうにルスタはゼアンの体を見回す。顔や手に傷はない。見えないところにあるのかとズボンからシャツを引っ張り出そうとするルスタに、ゼアンは「あのっ」と声をかけた。  心臓がばくばくしている。  ルスタは訝しげな顔でゼアンの目を見た。何か隠そうとしているなら、それを見抜こうとしている目だ。この目がゼアンは嫌いだけれど、今は逸らさない。隠そうとしているものを見抜かれては困るから、勇気を振り絞った。 「今日は、お願いがあります」 「願い? 何だ?」 「それはっ……、あの……」
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