四 あなたのために出来ること

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 手を放し、ルスタから離れた。自分を見下ろす優しい視線を受け止めて、ゼアンも笑む。 「着替えましょう。もう、帰らないと」 「まだ朝にもなっていないのに?」 「その前に、あなたはあなたの居場所に帰らないと」  名残惜しむルスタの手を逃れ、ゼアンは近くに放ってある服を取ろうとした。だが、その瞬間、体に痛みが走って息を呑む。  ベッドの上で丸くなったゼアンを見て、ルスタは「大丈夫か」と気遣う声をかける。 「体が痛むのだろう? 待っていろ。君は私が着せてやる」 「……お願いします」  ルスタは手早く自分の服を着ると、次にゼアンの服を手にベッドへ戻ってきた。 「ほら、頭は起こせるか?」  子どもの世話を焼くようにして、ルスタはシャツを頭から被せる。のろのろと腕を持ち上げると、袖を通され、きちんとボタンもかけてくれた。下着もズボンも、ゼアンがほとんど自分から動かずとも、ルスタが着替えさせてくれる。  そうやって、少しずつ時間を稼いだ。自分から動かないことで、ルスタが手を貸してくれる。ベルトを締めるとき、ゼアンは膝立ちになってルスタと向き合っていた。じっと相手を見下ろし、肩に腕を乗せて抱きつくように圧し掛かった。 「こら、ゼアン」 「疲れてるんですよ」 「手元が見えないだろう」 「見えなくても、出来るでしょう?」  手探りで、金具が留められる。  全部、着替え終わってしまった。  ルスタは自分に抱きついたままのゼアンに苦笑して、ぽんぽんと背中を叩いた。 「朝から甘えん坊だな。上着も着させようか?」 「……いえ。それには及びません。もう少しだけ、こうさせてください」 「抱き締めるだけ?」 「はい」 「キスは」 「……抱きしめていたいんです」  キスも魅力的だけれど、今は顔を合わせる勇気がなかった。抱きつく腕に力を込めると、涙を隠して明るい声を上げた。 「キスをすると、離れなくなりますから」
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